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鋭いロジックに感嘆、農水省の悪辣さに怒り=『日本は世界5位の農業大国』を読んだよ

日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率 (講談社プラスアルファ新書)

TBSラジオ・Digで紹介されているのを聞いて購入。結論からいえば、かなり面白い良書だった。「『日本農業は弱い』なんて誰がいった?日本はすでに『農業大国』なのである」(本書、3頁)という主張を実証的に展開、間違った認識をリードしてきた農水省をけちょんけちょんにするといった内容。

まず「日本は世界5位」という話について。農業の国内生産額(2005年)では、中国、米国、インド、ブラジルに続く世界第5位。「農業が生み出した付加価値の総額―農業GDP」でも30年以上にわたり5位以内をキープしているという。海外食品に依存しきっているようなイメージがあるが、日米英独仏5か国で比較すると、農作物輸入額、輸入量ともに第4位、突出して多いどころかむしろ少ないほうに位置している。

「いやいや、日本の食糧自給率は低いってよく聞くよ」との疑問がもたげてくるが、こちらも見事に回答。いわゆる「食糧自給率」とは、日本でしか用いられない特殊な指標である「カロリーベース」で算出されている。国産供給カロリー(国産+輸出供給カロリー)を供給カロリー(国産+輸入-輸出)で割ったものだが、さまざまなマジックが隠されている。曰く、分母の供給カロリーには食べられずに廃棄される食品も含まれる(30%に達する)、輸入飼料を使った場合には国内畜産農家生産分も輸入扱い(どんな大畜産農家でもカロリー生産量ゼロとカウント!)などなど。

そもそも先進国になれば、農業から工業へ、または付加価値の低い農業製品(穀物など)から付加価値の高い農業製品(野菜、果物)に転化するのは必然だと本書は喝破する。カロリーベースの自給率の低さはむしろ必然なのだ、と。といった具合にロジカルに話が進んでいくのだが、その過程でやり玉に挙げられる農水省のロジックのひどさ、あるいは天下り団体の凄まじいばかりの無駄遣いっぷりについてはいくつか実例が挙げられており、そのむごさにはあ然とさせられる。そして民主党が掲げる10年後の自給率50%、20年後60%、最終的には100%という自給率向上計画がいかに逆効果かという話も説得的だ。

本書で繰り返しでてくるのは、農業は特殊な産業だと思われているというキーワード。戸数では多数を占める、実際には農業で収入を得ていない零細兼業農家を見るのではなく、ある程度の規模を備え知識とやる気を持つ農業経営者を見れば、農業もまた工業などと変わらない普通の産業分野として考えることができるというメッセージだ。筆者の浅川芳裕氏は雑誌「農業経営者」副編集長という肩書きで、まさにこうした農業経営者をターゲットにした雑誌を運営しているというバイアスを割り引いても、うなずかされる個所が多い。

ちなみに著者略歴を見ると、「エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退」という面白い経歴。こちらのブログでは「エジプトの警察に拷問を受けていましたとか、アパートに帰ったら部屋の荷物が全部ひっくり返されていましたとか、ガザに行っていたのですが、そこでハマスの連中に縄跳びを教えてましたとか、とにかく物騒なのである。(…)そのころの彼はまだ19か20だった。それでもアラビア語と英語を自由に操り、おそるべき企画力と情報収集力、そして行動力に秀でた彼は、当時の在カイロの日本メディアすら舌を巻くレベルとスピードでアラブ・イスラエル世界の闇を突き進んでいた」とエジプト時代のエピソードが紹介されている。あまりに面白そうなので、こちらの話もぜひ書籍化して欲しい。

浅川芳裕 blog
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<書評>戸惑いから気づく「生の声」=ふるまいよしこ著『中国新声代』



「生の声」「本当の姿」を伝えたい、知りたい。

誰もが思うことながら、しかしその実現はとても難しい。語り手が自分の立場を押しつけようとする。そういったわかりやすいバイアスが邪魔しているケースもあるだろう。しかし問題はもっと本質的なところにある。なにかの事柄について論理立てて語ること。その語るという行為自体が、なにかを切り捨てて一つの物語に「加工」することにほかならないからだ。

こんなありがちな問題をなぜ長々と語ったかというと、今回取り上げる本『中国新声代』が「生の声を伝える」課題に挑み、ユニークな成果を上げていると感じたためだ。

本書は女優、漫画家、ブロガー、企業家、経済学者、ビデオクリエイターなど中国人18人のインタビュー集。中国在住の日本人著者・ふるまいよしこは、「中国で起こる事件、あるいは中国社会の出来事について、日ごろから中国社会に向けて発言している中国人識者の話を、そのまま日本の読者に伝えたい」と動機を語っている。

「中国人識者の話を、そのまま」という方針は本書で一貫している。つまり日本人読者向けに調整されることなく、中国の文脈そのままでの発言が記録されている。章ごとに背景の説明はあるとはいえ、日本人になじみのない話題や単語も多く、戸惑う人も多いのではないか。

だが、その戸惑いこそ「生の声」を理解する糸口なのだ。私たちが考える論点や言葉ではないもの。私たちの想像とはずれた、中国の人々やインタビューイが重要だと考えている事柄が浮かび上がってくる。

一例を挙げよう。歴史学者・袁偉時氏のインタビューには「非制度化文化」という言葉が登場する。「非制度化された文化とはなんだ?」「そもそも制度化された文化なんてあるのか?」と最初は引っかかった。しかし読み進めていくと、公権力が介入して統一的に作り上げられるような「制度化された文化」に対置された概念であり、そうした政府の押しつけ文化と市民の選択による文化とを分けていることがわかる。

「なるほど、社会主義の国だけに文化すらも国から強要されるのか」とだけ考えるのは早計だ。袁氏はさらに「非制度化文化」を当然のものとしてはならないと話し、人権など世界共通の普遍的な理念を受け入れるべきと提案している。本書を糸口に調べていけば、中国ではナショナリズムを背景に、「西洋とは異なった東洋的、すなわち中国的な近代がありうる」という主張が力を持ちつつあることを知るだろう。袁氏の主張は、公権力の押しつけに反対すると同時に、国際標準の理念を拒否しかねないナショナリズムに抗するためのもの。「中国の今」と格闘する知的営為にほかならない。

もう一度繰り返そう。「中国人識者の話を、そのまま」を目指して書かれた本書は、決して読みやすく、するりと理解できる本ではない。だが、その引っかかりにこそ「生の声」を、現代中国を理解するカギが隠されている。

ふるまいよしこ『中国新声代』集広舎、2010年、2300円+税。




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私は「毛主席の小戦士」だった―書評

私は「毛主席の小戦士」だった―ある中国人哲学者の告白私は「毛主席の小戦士」だった―ある中国人哲学者の告白
(2006/10)
石 平

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 中国の愛国主義教育、反日感情についての執筆活動を続ける評論家・石平氏の著作。

 同氏の本を読むのは『中国「愛国攘夷」の病理―吹き荒れる電脳ナショナリズム』以来。というのも『数字が証す中国の知られざる正体―「21世紀は中国の世紀」のウソを暴く』とか、『 「日中友好」は日本を滅ぼす!――歴史が教える「脱・中国」の法則』とか、おどろおどろしいタイトルを見るだけで、なにかげんなりしてしまう。

 中国本は「売らんかな」という気持ちが先走りすぎて、扇情的すぎるタイトルをつけているものが多いが、逆にそれで引いてしまう人もいるのではないかと思う。最近だと『China Price』が『中国貧困絶望工場』という邦題をあてられていたが、いい本なのにタイトル見ただけで「そんなの読んでいるの?」と眉をひそめられたこともあった。

 そういう意味では本作はてらいのないタイトルだが、それだけに手に取りやすいかも。図書館で目についたため、なんとなく借りてしまった。

 すると、石平氏が語る自らの体験はなかなか興味深いもの。文革期にあたる少年時代、学校で徹底的に毛沢東を崇拝するよう教育を受けたこと、授業をする女性教師が毛沢東の素晴らしさを語りながら涙ぐんでいたことなどが語られ、そこから民主化運動への参画と挫折しての日本留学と体験が語られていく。

 ほかにも、愛国主義教育にどっぷりつかった甥から、日本で稼いだ金は受け取れない、と小遣いを突き返され、中国の反日感情問題を告発することを決意したこと。漢方医だった祖父に論語を学んだエピソードは印象的。当時、封建思想の代表である儒教を学ぶことはきわめて危険な行為だった。そのため祖父は書き取りさせたノートを焼いていたという。その後、日本に留学後、多くの論語関連の本を目にし、中国が失った文化が日本に残っていることに感動して「親日派」となったのだという。

 本書ではそれ以外にも石平氏が他の著作でも説いている中国の愛国主義教育、反日感情の問題についても触れているのだが、そこには少し違和感がある。というのは石平氏の描く「ウルトラナショナリズム」に毒された中国人は、みな心の底から日本を憎悪しいきりたっている姿で描かれているためだ。

 私の交友範囲はそんなに広いものではなかったが、その範囲で知っている中国人の若者の印象とは全然違うというか。日本製品好きだし、日本文化にも興味あり。日本人と友達になることも屈託がない。ただそういう彼らがなにか事件があると不買運動だーと盛り上がったり、飲み会の席で日本の悪口を言い合ってみたりと変貌する。もちろんかちこちの反日青年もいるのだろうが、そうじゃない普通の感情しか持たない人が大多数ではないかというのが私の感じたところだった。

 つまり「反日」というのは誰かとおしゃべりしたり、盛り上がったりする時に消費される格好のネタの一つでしかないというのが私の読みだ。日本の悪口は中国人ならば誰でもすぐに文脈が理解できる格好の題材なのだ。

 日本を悪くいうこと、がそこまで広まっている社会こそ反日そのものではないか、と言われたらそれまでだが、そうだとしてもそれは江沢民以降の愛国主義教育の成果というよりも、抗日戦争映画などそれ以前から続いているものではなかろうか。

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こんなに楽しい中国の「農民画」―書評

こんなに楽しい中国の「農民画」』魁星出版、2007年。

 「農民画」とは元々は農民自身が描いた吉祥画です(百度百科の解説、中国語)。新中国成立後、一時は伝統的な題材が禁止され革命的テーマのものが描かれてきましたが、今ではその束縛もなくなり、比較的自由なテーマで描かれるようになりました。

 本書はそうした農民画の数々を集めたもの。素朴な画で伝えられる中国の日常風景は眺めているだけで、なんとなく楽しくなります。

 農民画の解説や歴史などの情報量は少なく、そういった知識を期待すると肩すかしではありますが、ぼーっと眺めるにはなんともすてきな一冊です。

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