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“闇監獄”とはなにか?=性的暴行事件が浮き彫りにした社会矛盾

2009年8月3日、北京市の聚源ホテルで安徽省出身の20歳前後の女性・李蕊蕊さんが性的暴行を受ける事件が起きました。李さんにとって辛い事件であったのはもちろんのこと、中国社会全体の矛盾を象徴する事件ともなりました。

事件の経緯を8月9日付聯合早報から。北京に到着した李さんは北京南駅側の聚源ホテルへと連れてこられた。部屋には河南省、安徽省、遼寧省の出身者が70人ほどもいた。実はこのホテル、いくつかの地方政府向けに「上訪者」(上訪とは中国語で陳情)を泊める業務を行っているという。付近には同様の業務を行うホテルがいくつか存在する。泊めるといってもその実態は軟禁同然で、外出すら許されないありさまだ。

3日夜、李さんは見張り役の若い男に性的暴行を加えられた。まわりには同じ「上訪者」たちが寝ていたが、李さんの泣く声に誰も取り合おうとしなかった。なにせこの部屋では毎晩のように誰かが泣いているのだから。

翌朝、事件を知った「上訪者」たちは怒り狂い、どうにかして警察に通報することを決めた。朝6時ごろ、閉じ込められていた女性たちは大声で「助けて」と叫んだ。しかしホテル側が取り合おうとしないのを知るやドアを蹴り開け、外へと飛び出した。性的暴行の証拠として血で汚れた布団も持ち出したという。ホテル側スタッフは部屋に戻るよう呼びかけたところ、一部の人は問題を解決した後に戻ると約束、また一部の人はそのまま故郷へと戻ったという。残る人々はホテルから近い派出所に赴き通報した、というもの。

ところが派出所は事件を受理しようとはせず、ならばと公安局に向かった「上訪者」は逆に拘束される始末。事件を最初に伝えた南方週末の記事は削除され、李さんを始め一部「上訪者」は故郷へと連れ去られました。ただしその後、公安局への抗議をAP通信、BBC放送など海外メディアが報じ、ついには中国メディアも事件を報じるようになっています。

中国には「上訪」というシステムがあります。地方政府の不正を上級の役所(最終的には北京の中央政府)へと訴えるという制度で、イメージ的には江戸時代の「直訴」に似ているとも言えるでしょうか。興味深いのはこのある種超法規的なシステムが制度内に位置づけられていること。中央政府には国家信訪局という「上訪」専門の機関まであります。

地方政府の不正と汚職があふれかえっている中国だけに「上訪」する人は大勢いますが、もちろんそう簡単に願いが通るわけではありません。訴えた後いつ来るかわからない返事を待って北京市の安宿に長逗留しなければいけないのはあたりまえ。それどころか、北京市に着いた途端に待ち構えていた地元政府関係者に連れ返されたり、暴行を加えられたり、果てには精神病院に叩き込まれたりと悲惨な事態へと追い込まれたニュースがよく伝えられています。

わたしは今回の事件で初めて知ったのが、北京市にはこうした「上訪者」を軟禁する“ホテル”がいくつもあるということ。中国メディアは「闇監獄」と表現しています。「毎晩のように誰かが泣いている」という描写からはその絶望的な情景が想像されます。ただ注記すると、メディアによって情景説明はかなり異なっているもよう。上の聯合早報の描写は初報の南方週末に従ったものですが、「わたしは性的暴行されるさまをずっと見ていました」「老人があなたにも姉妹がいるでしょう、おやめなさいと声をかけたが無視された」などと報じているメディアもあります。まあどちらにせよとてつもなく悲惨な状況であったことだけは間違いないようですが。また一部報道ではこうしたホテルはマフィアが経営しており、収容されている人々は「豚のように喰らい犬のように寝る」生活を余儀なくされていたそうです。暴力が振るわれたり性的暴行を加えられることもしばしばだったとか。

「上訪」というシステムは前近代から存在し、民を虐げる地方官がどんなに悪事を働いても皇帝はわかってくださるという“フィクション”を成り立たせる機能を果たしてきました。もちろん実際に訴えが通ることはレアケースだったわけですが、訴えるための回路を確保しておくことで、統治権力の正統性は担保されていました。

もし司法や「上訪」への期待が消滅するようなことがあれば、それはすなわち権力の正統性が失われることを意味します。そうなれば人々は暴動など非合法な手段で自己の権利を守るしかなくなるでしょう。

統治者の恣意的な温情で超法規的な解決を目指す「上訪」は民主主義とは相いれない制度だと考えますが、少なくとも今後も一定期間の間は中国社会の秩序を維持するためには必要な制度でしょう。その制度への期待を失わせないための努力が中国政府には求められているはずです。


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